Sさん

2点F以上の発声は、大分喉が開いてきてそれらしい声になってきた。
歌の中では歌詞のせいもあり、まだきつい部分もあるが、いずれ慣れれば発声練習の声が出せると思う。
段差が出てしまうのは喉が上がってしまうからで、一見当たった高音が出ているようでも、喉を締めて出していることに気づいて欲しい。

中低音は大分癖が抜けて、音程も良くなってきた。
後は、ピッチが低くなることには気をつけて欲しい。

いずれにしても、彼女は熱心で好きだから教えるに苦労はない、彼女が掴んでくれるから安心している。
色々方法論を教えていても、微細な声の変化を捉えて、的確な判断を答えてくれる。
感覚において音楽、歌声に親しんでいる経験があるから、それが強みである。

コンコーネは20番から。
コンコーネは19世紀の古い作品だと思うが、この19番を聞いていると少し前の古いCMの音楽みたいで面白い。
音楽って変わっているようで変わらないのだな~と実感。
伴奏を弾いて彼女の歌うコンコーネを聴いていると、一体今何処の国の音楽をやっているのか?と不思議な気がする。

コンコーネはとてもよく歌えていて、彼女の勉強家ぶりが伺えて気持ちが良かった。
高音は力まないで、喉を開くことを大切に。
お腹で放り上げることも必要な面があるが、あまりやり過ぎると高音がぎゃくにきつくなるだろう。
喉の状態に常に敏感になって、丁寧に発声を扱って欲しい。
また、中低音はピッチに気をつけることで、高音にも影響がある。

曲はQuella fiamma che m’accendeから。
間違って中声用から始めたが、高声用にした。
どちらでも勉強になるが、前者は中低音の響き、後者は高音の発声の確立だろう。

高音ほどブレスあるいは声を出す準備として、あくびをした状態を思い出して実行して欲しい。
そのまま出しちゃうと、結局チェンジしただけの細い締まった響きになってしまうから注意。
特に最高音2点Aが出るフレーズは、ブレスで注意が必要。
キーが高い分、中低音は楽である。

最後にイタリア古典のPur dicesti o bocca bellaをざっと母音で譜読みしてから、イタリア語をつけてもやってみた。
なんとなく楽しそうな雰囲気が自然に出て好感が持てる。
こちらは中声用である。
恐らく中音域の声の練習になるだろう。
意外なほど修飾音符も良く捉えて歌えている。そういうところは非凡であるし、人によっても違うものだな、と実感。
どの曲をやっても、恐らく楽しく歌える人だろう。それが強みだから、この曲も音楽を大切にして声を伸ばして欲しい。

T橋さん

彼女の発声は元気が良いか、頼りないかどちらかに偏り勝ちだ。
もう少し中くらい、という声の出し方の基準が出来ると良いのだが。
特に高音はあまり力まないで、かつ喉のコントロールを考えて出す頃合を持って欲しい。

思い切って出すしかない、という感じなので出してみないと分からない感じである。
それほど力まずとも出ると思う。
発声練習の際に、その辺り気遣ってみたいと思った。
恐らく高音ほどお腹を使わねば!と思うあまりに、お腹をど~んと使い過ぎていないだろうか?

今日は3点Fまでやってみた。
ほとんど細い糸みたいになるが、確実に音程が出ているから立派なものである。
単に出しなれるということは必要なので、これからも積み重ねて行きたい。

今日はドニゼッティの歌曲
La corrispondenza amorosaを練習。
歌詞はフランス語なのになぜタイトルはイタリア語なのだろうか?
それはともかくフランス語の読みを確立。
意外だったのは発音記号の知識。
鼻母音は発音記号の上に波線が付くから、Nをぼかした鼻音である。

後はこの曲は9/8拍子なので、リズム読みをじっくり時間をかけてやって欲しい。
リズムが苦手のようなので、ならばこそ、理論的にしっかり練習が必要である。
特に節の変わり目で延ばす音のリズムとブレスポイントを確立しないと、歌にならない。

F谷さんでもそうだったが、リズムが苦手なのは漠然としているわけで、分からない点は譜面に良く印をつければ
リズムの構造が分かるように出来ると思う。
例えば9/8なら八分音符3つ分を一区切りにするように、印を付けることも出来るだろう。
分からないこと、方法論などレッスンでの質問も欲しいところ。
録音を聞いて何となく覚えて真似歌いだけではなく、譜面から音楽を起こすことも、とても大切なことだと思う。

最後にシュトラウスのSpring song
こちらも時間がなくて、結局前回進んだところから先には行かれなかった。
もう少し前回の分の復習、特に最後の方のシンコペーションのリズムなどの難しいところを確実にクリアしておいて欲しい。

G藤さん

発声練習に30分以上かけただろうか?
胸声を教えてください、ということだが、胸声は元々ある。
ただ、使い方の問題だと思う。

歌うことにおいて、音程を気にすることと、喉を労わるいわゆる開いた発声が強いので、声の芯が弱いことになる。
だから、もう一度芯を復活させようじゃないか、ということが、今彼に対してレッスンしている課題の中心である。

音程を気にするのは、要するに音程が下がらないように、上げようとする無意識である。
特に声の出始めで、この傾向が強いようである。

音程を上げようと意識するから、どうしても喉頭は上がり気味で、ブラブラするのだが、そのために声帯の伸展が弱くなり
勢い、響きが弱くなり芯が弱い声になる。
あたかも、弦楽器のコマをきちっと締めないで、緩い弦の状態で演奏するような感じである。
コマはきちっと締めて弦をびしっと張る、ということが声でも同じなのだ。

そのためには姿勢が非常に重要。
それは、首を真っ直ぐに立てて顎を出さないことと、声を出す瞬間とか、音程が上がる瞬間に、無意識に動かしてしまう顔を
びしっと微動だにしない意識が必要である。

顎を引くと、一見喉頭が不自由で、押さえつけられる不愉快があるが、それでも声を出すと顔面にびりびりと響く声が出せるポイントが
見つかったら、その時の首の顔の姿勢位置を良く覚えて欲しい。
たとえ喉頭が不自由に感じたとしても、である。

非常に単純なことで、声帯をよく伸展させた使い方、というイメージを持てば良いのであり、悪い意味で喉を使うこととは区別して欲しいのである。
外国、特にドイツ流派は喉を使わない頭声とか、いうことを言われるし、実際に彼の地でもそういう発声を教えるが、
それは元々芯がある声の出し方をしっかり持っているからであり、芯の出し方が分かっていない人も同じように、最初から喉を使わない意識で訓練すると、いつまで経ってもぼ~っとした声にしかならないのである。

したがって、今まで使わなかったものを使うようにするためには、生理的におかしな感覚を経ることになる。
それを我慢して、乗り越えることが出来ないと、なかなか新しいことは手に入らないのである。
筋肉は使わないものを使うようにするとき、緊張を感じるが、それを避けていては筋肉が慣れてくれないのであって
新しいことをやるときは、怖がらないで積極的にやってほしい。

ただし、使いすぎ、同じことの練習のしすぎは必ず筋肉を傷めるから、程度問題であることも良く分かってほしい。
声の訓練は、ほどほどに、しかし毎日少しずつ、がコツである。

曲は前回と同じく、Addio Napoleとシューベルトの菩提樹

Addio Napoleは、思い切って声を出すことと声の出だしをしっかり意識すること。
菩提樹も同じだが、基本的に低音はあくびをし過ぎるとモガモガして聞こえにくいし音程も♭気味に聞こえるので
むしろ顎を良く引いて顔面に響きが集まる意識を持つことである。
最初から柔らかく出そうと思わない方が良いだろう。
最終的には柔らかい響きは必要だが、今はそのまったく逆の声を開発することの意味をわかって欲しい。

F谷さん

発声は難しい。
喉周辺の使い方を教えると、そのことに拘泥して必要以上になるようで、身体の使い方が硬くなってしまう。
いわゆる意識しすぎ状態になってロボットのようになる。
人間は機械ではないから、もう少し自然に、ということがあった上での、発声を意識してもらいたいのだが。。
そんなことも多々あるので、結局、余計なことをしないで、楽に、という方向に収斂されてしまうようである。
本当はもっと低い音域の曲をじっくり積み上げて、少しずつ声域を見れば良かったのかな、と反省もある。

だが歌うモチヴェーションがそれでは、消えてしまうようである。
歌が好きだが、好きなだけに歌の持つ力に依存する傾向が強いわけである。
それは選曲の狭さにも現われるし、音域のこともあるだろう。
それは、結局譜読みの問題にも関わるので、この辺が今後長く続けられるか?伸びるかどうか?というポイントになると思う。
そういう意味では、録音を聞かずに時間がかかっても自力で譜読みをして、声を作り上げていくことをすることは良いことだろう。
急がば回れというのは、こういうことだったか?

それでも徐々にだが、喉で押さない高音を本人が意識できているらしいことは分かるし。本人も自覚しているようである。
後一歩押すと、気持ちよいが喉の耐性がなくなるポイントを本人が自覚していれば、良いところにいけるだろう、と希望観測的ではある。
まあ趣味だし楽しみなので焦らずじっくり、しかし少しずつ上を目指して欲しいと思う。

タリアフェッリのPiscatore e pusillecoを練習。
こちらは、良い味を出して歌っていた。
楽しそうである。
3番まである、意外と長い歌だが1点F前後を歌い進むフレーズが随所に出てくるが、喉の耐性は良くなったように思えた。
無理をしていないで、かつ楽しく声を出せるから良いだろう。

トスティのAncoraは6/4拍子なので、どうも読み難いらしい。
だが、6/8と同じである。
単に4部音符か8分音符か?の違い。
音符を小節線をまたいで伸ばす場合のリズムに注意。
彼の楽譜を見ても、譜面への記入、書き添えがまるでない。

リズムはきちっと鉛筆なのでチェックして、リズムの区切れなどを論理的に把握して欲しい。
論理的なクールな分析があることで、声の出し方にも歌にも客観性が出てきて、美しくなる。
アマチュアであっても、人に聞かせる以上は、客観性のある表現を得て欲しいものである。

最後にトスティのRidonami la calmaを譜読み。
どうもあまり面白くないかもしれないが、我慢して少し譜読みに励んで欲しい。
我慢から先に本当の面白さが見えてくると思うから。