FAさん

発声練習をせずに、合わせとなった。
L’allee est sans finは、前回ノートに書いたように、右手で歌うように弾いてもらい歌いやすそうだったが、1回目は、いつも陥る細いスカスカの声になってしまった。
それでも、歌い進むうちに少しずつ落ち着きを見せたのは良かったが、本番でこれをやると、ちょっと危ない感じであるな~と思った。

それで、再度1曲目の出だしに着いて。
声の出だす所を明快に意識すること、それはみぞおちに口が上向きに付いていて
そこから声が出る、と思うこと。
あるいは、前奏のピアノを聞きながら太い低いポイントの声をイメージしていることなどである。

2回目に、上手くはまったが、それはかなりデリケートでクリティカルなものだった。綺麗に当った響きが出ているのだが、それがちょっとしたことですっぽ抜けそうな感じがあるのである。

しかし最後にもう一度やったときは、素晴らしく良かった。良い中低音の響きが確立している。

2曲目のEn sourdineは、テンポがぴったり。
声は落ち着いてきたが、やや中にこもるだけに感じたので、目の前50センチくらいを目標に前に出す意識を持ってもらった。
これも成功で、3回目になると、かなり良い、ほとんど感性と言っても良いくらいの美しい中低音が出せるようになった。
この感触をなんとか覚えてもらいたいものである。

3曲目のL’heure exquiseは、これも低いために、やや恐々としている。
最低音は無理しなくて良いのだが、2点E以上はもっと積極的に出そうとしても大丈夫である。
それは歌詞のアーティキュレーションを利用するという考え方の方が良い。
例えば、La lune blancheの鼻母音の響きは、少し音程が上がるが、この際に口を縦に良くあけるポイントをみつけるのである。
そうすると、開き具合で響きが増すポイントがある。

これを口をほとんど動かさずに、開けないで対処するから、上手く響きがはまらない、あるいは締まる、ということになる。
勿論、過ぎたるは及ばざるもあるわけで、開けすぎも良くないわけだ。
歌詞の発音を利用して、響きを作ることを覚えると、発声がとても楽になる。

この曲は個人的にソフトペダルはほとんど要らないと思う。
ソフトペダルを使うと、音量の調整が楽で、一見綺麗な響きになるのだが、その綺麗な響きの意味が良く判らなくなる。
響きというものは、必ず音楽の意味がこもっているわけで、ソフトペダルを使う以上、使う意味がはっきりしないといけない。
ただ単に音量の低減や、出すぎてしまう打鍵の抑制、という意味だけで弾くと、どうも音楽がぼやけると思う。

実際、ソフトを使わないで弾いてもらった方が、この曲の明るいが抑制の効いた、素朴な味わいが良く出た。

本番だが、彼女は感情をこめること、歌う意味に集中しようとする姿勢に好感が持てるのだが、声がまだできていない今は、
そのことよりも声を出すこと、発声の確実さ、にだけ集中する方が良いと思う。
そうやって、本番を重ねて、声のことが定着、安定したら、再び、歌うことの意味、姿勢、感情的な内容を声に自然に出していけば良いのである。
ともあれ、今回は良い声に到達できているので、それが本番で出来れば、大成功だ。期待している。