AM

彼女はオフィスワークをしているが、それにしても一日中喋らないで過ごすらしい。
そのせいだろうか、喉自体の活力が見事に低下している。
発声を始めたら、声のチェンジの段差がきつく、上の声区が細くてスカスカだし、ちょっと低音に降りると地声になってしまう。
また、声を出したことで痰がからんで、からからばさばさとして、ちょっと対応に困るくらいであった。

しかしながら、そこが彼女の良いところで、しばらく歌っているうちに、上の声区の声が開いてきて、響きにも芯がついてきた。
一番良かった練習方法は、高めの2点C以上でのイの母音での響きを出し、そこから、その響きを変えないようにしてエからアに変えていく練習である。

そのことで、口の開き具合や使い方を感覚的に思い出していったのだろう。
その後、歌に入っても調子は最初は悪かったが、時を経るに連れ調子を上げていった。

良いところは感覚的に何かをしよう、出来る限りなんとかする、という意欲があることと、そして本質的に高音の喉を持っていること。
高音は恐らくかなりなハイソプラノが出来るくらいだろう。
2点Gを越すと、ちょっと工夫すればいくらでも上まで昇っていけそうな喉である。
後は、そういう曲を歌いたいと思う、本人のモチヴェーションだろう。

曲はイタリア古典からアマリッリ。
譜面の読み方の間違いを直して、何度か通しているうちにようやく声が戻ってきた。
その続きてStar vicinoを。
こちらは、全体の音域の高さもあって、調子が良くなった。

とにかく必死に歌っている姿が好ましい。何とかしよう、何とか良い声に、という姿勢が、自然に声に反映されている。
今はこれで充分である。経験を積むことが出来れば、声は伸びていくだろう、と思える。