KH
伴奏合わせ。
良い声が出ていた。中高音2点D~Fにかけて良い共鳴の響きが出せるようになってきた。
歌として特に指示すべきことは、ほとんどなかった。伴奏合わせで伴奏とのアンサンブル、特に伴奏への注文となった。
ドナウディVaghissima sembianzaは、歌手が急いで歌わないで済むことと、遅くなり過ぎないこと、が注文。
前奏は大らかにオーケストラのように。それでいて、歌の伴奏部は、特に8分音符の進み方で歌手が歌いやすいように。
そういうことで、彼女の場合良い声が出せたり出せなかったりするので、とても重要なことなのである。

マスカーニのアヴェ・マリアは、前節のテンポ、声ともに素晴らしい。静けさや宗教的な雰囲気が良く表現できている。
後節の伴奏形が入って、アリア風になってからは、伴奏は大きすぎないでむしろPくらいの方が良い。
歌は特に後半はアリアのように、ドラマティックに歌って欲しい。
高音は、軟口蓋を上げるだけだと喉が締まるから、むしろ口は縦にあけたほうが良いと思う。

バッハBist du bei mirは、ピアノの響き注意!ソフトを踏まないで出来る限りソフトに、そして内声部の旋律を浮き立たせるように。
ソフトに丁寧に弾く事で、自ずと音楽的なテンポ感が決まるだろう。
あたかも、ランプの光の中で一人静かに物思いに耽りながら、手紙を書いているようなIntimeな雰囲気をイメージして欲しい。
歌はとても良いので何も心配はない。強いて言えばイの母音が浅く平たくならないように、口を丸くした響きになると良いと思う。

FA

伴奏あわせ。パリへの旅は、最初、声がすかすかだったので、声を当てる場所を指示。
喉の下、鎖骨の窪みに声を当てるように意識してもらったら、中低音の響きがしっかり定まり、その上で締まらない非常に良い声が出せるようになった。これは本当に良い声になって、教えているこちらが目から鱗であった。この発声を確実に掴んでくれたのであれば、この選曲は大成功といえるだろう。

パリへの旅は、Pで歌う際の間合いは取る事。伴奏も充分抑えること。逆に前奏は華やかに、歌に入ってから抑えること。
後奏も思い切り華やかに!「ホテル」は、前奏のテンポ、早すぎないこと、そのことで、声の出だしが良い声が出せるから大いに注意が必要。Ma cigaretteは充分にポルタメントをかけて。ピアノのテンポさえ間違えなければ彼女らしい美しい中低音の声が聴けるだろう。
Je veux fumerの終わりは上ずらないように気を付けて!

「グルヌイエール」は、前半は素晴らしい。後半、Avec les femmes,,のAを良く喉を開けることで、音程の上ずりも防げるし、良い低音の声に戻れるだろう。それはその前に高音域に上る結果、上ずってしまうことを防ぐという意味もある。
Petit bateauは、深く発声すると、これも上ずらない。最後のL’ileの響きも上ずらないように、低目を意識して。
この場所ではピアノは直ぐに大きく進んで行って欲しい。

「モンパルナス」は、これも節による音楽の違いを伴奏に指示。進むところ、停滞する所、強調する響き、などなど。
歌としては、これも基本の声はとても良い声が出せているので心配はない。
中間部のVous connaissez de son pave ces raies sur lesquelles,il ne faut pas que l’on marcheのフレーズは、前に出さずに
身体の中で留めておくことで、思い出に耽っている内面的な悦びが表現出来る。次から前に出して積極的に。

Il fait un peu lourdからは、上ずらないようにこれも深く発声して欲しい。
歌の最後、A l’aventureの終わりは、無理に伸ばさないで、すっと切った方が良いだろう。
ブレスだけど、ブレスの際に顎を上げないでお腹にしっかり閉じ込めるようにすることと、Aventureのuを伸ばして歌うところで、息を出し過ぎないように注意するともっと持つのではないかな?

SY

イブの唄、Roses ardentesは、テンポの設定を結果的に楽譜より早めにした。
最初は声が温まらずに、遅くして、これも結果的に楽譜どおりだったのだが、どうも今回選んだ3曲をつなげて歌うということもあり、
早めのテンポになった。
ただ、これも会場の響きを聞いて少し調整したい感がある。
いずれにしても、母音の響きを明るく良く前に出すように歌い始めて欲しい。

Veilles tu ma senteur du soleilは、最初は合わせ辛いので、テンポ感、ビートをはっきり出して弾いてもらう、あるいは
歌も確実に歌う、ということで練習した。
最後に慣れてきたところで、歌手にはフレーズだけを大切に歌い始めることを教えた。

そうでないと、歌い始めの間合いをテンポを数えて入ってしまうために、かえってピアノと合わせ辛くなってしまうためである。
次回もあるので、心配ないが、これはもう慣れしかなく、感覚で自然に入るのが一番である。
また、歌いだしてからもテンポで歌わないでフレーズで滑らかに歌った方が良いだろう。
当然、ピアノも3連符の刻みが出るよりも、3連符が繋がった和音的な響きの塊がうねうねと出るように、ソフトペダルも上手く使って
滑らかで柔らかい雲のようなイメージで弾いてもらえると良いと思う。

Crepusculeは、今日は言うべきことはない、始まりのピアノの単打音が非常に良い響きのために、黄昏の空気感を良く表現できているし、歌は力強い希望と意志を表現できている。彼女らしさ、そのままで歌えばそれで決まりという感じ。
本当に良い声で力強く歌えるようになって、驚きである。この調子をずっと維持して欲しい。

ピアノは叩いて良く出す響きはとても良くなったが、その分、今度は抑えるべきところを更に注意してもらうことで、声楽家が出来ない表現を出すことが出来ると思う。特に後期フォーレの音楽は響きの集合が音楽になり、しかもそれが柔らかく全体に波のように響きが伝播していくような効果があるので、ペダルはソフトも含めてかなり研究の余地があると思う。

AC

今日は発声練習なしで、歌に入ったが見事なくらいに良い声を最初から出せていた。
この辺りも彼女の成長ぶりがうかがえて嬉しい出来事であった。
1曲目、Soupirは、テンポの設定を遅くと早くでやってみたが、この曲はどう表現しても、楽に歌える曲ではないと思った。
楽に歌うと、何か能天気な感じになってしまう。
しかしねちねち歌うことでもないと思う。
結果的には幸福感を持った歌なので、ゆったりした内面的な、秘密めいた非常に個人的な喜びをイメージして欲しい。
ピアノの伴奏に関しては、抑えるところと出す所の差をもう少し出せれば良いだろう、特に抑えるほうにおいてである。

Serenade Florentineは、これも前奏の響きから相応しい空気感が良く表出出来ていた。
歌も相応しい声質であった。注意点は、特に出だしからの一連のフレーズでは、声に暖かい芯を混ぜている発声だから、発音の仕方として中を良く広げるように、軟口蓋を上げるように発音することで、音程の♭を回避できる点は注意して欲しい。

Phidyleは、これも伴奏良く研究してくれた。特に出だしの単純な和音の響きは、風のそよぐ暖かな草原の雰囲気が横溢であった。
声はここでは、その伴奏和音に負けない良い声を出さなければならない。ピッチがきっちり高くなければいけない。
エの母音は、喉浅すぎても良くないが口を横に使って、軟口蓋の高い響きを大切に。
この節は全体に響きの明るさとピッチが大切なので、下顎でアーティキュレーションしない発声を大切にして欲しい。
後の部分は、ほとんど発声的にも歌唱としても現時点では言うことがない。教えたことが全部出来ている。
ピアノの音楽は全体的にも音楽に書いてあることが響きとして実直に出せていたので、結果的に節による変化が充分に表せていた。
テンポの変化、勢い、など良い。強いて言えば、歌の終わる最後のコーダ部は、力んでしまうためにフォルテが少し浮ついてしまう点が惜しい。ずっしりとした分厚いフォルテが出せるためにテンポが落ちても良いかもしれない、とは思うが、次回考えてみたい。

MM

ベッリーニのAh non credea mirartiは、やはり最後のページの声が懸案事項である。
音程を気にするためなのか、どうしても喉が上がった発声になり、結果的にスカスカとしたチェンジしただけの声になってしまう。
これもレッスンからやってきたことなので、改めて細かく書かないが、例えば喉の下の窪みを意識するとか、前を意識するとか
ポイントを決めて、怖がらずに思い切って素早く声をアタックして欲しい。
それが出来れば、後は言うことはない。

シャブリエのLe sentier sombreは、最初はやはり喉が高くなってしまい、聴きづらい響きになった。
特にIl est en sombreの入りのイである。もっと低い音に近いところをイメージして声をアタックして欲しい。
また、中高音域のアの母音は喉側を良く開けて、喉が上がらない発声をしてもらいたい。

Credo d’amourは、ピアノのフレーズの作り方の工夫に後一歩。
伴奏部は、にぎやかなブラスバンドありの、ティンパニーありの、とオーケストラ的なので、オーケストラで聴くと良い意味で曖昧な音楽になる、テンポの揺れみたいなものを工夫してもらいたい。
テンポ感、ビート感よりも、響きのうねり、とでも言おうか。

その分、歌はしっかり自分のフレージングをしないと、重くなって歌えなくなるだろう。
歌のフレーズも、ブレスは間合いを取って良いから、あまりきっちりとIn tempoに過ぎない方が良い感じである。
また、声は充分響かせて、特に出だしのJe croisはしっかり出して欲しい。
音楽的に重いところ、語るところ、など仔細に考えて工夫して欲しい。